ARTcollectors' in Asia

台中で開催中のアジア・アート・ビエンナーレが捉える現代の世相

Category: art fair, exhibition, interview

会場入口風景

 10月5日〜2020年2月9日まで、台中の国立台湾美術館で7回目の「アジア・アート・ビエンナーレ」が開催されている。テーマは「The Strangers from Beyond the Mountain and the Sea」。会場は2層で構成され、平面絵画から彫刻、インスタレーション、映像などの作品を展示している。今回はアーティストの許家維(シュ・ジャウェィ)と何子彦(ホー・ツーニェン)がキュレーションしており、許家維に今回のビエンナーレを通して見えてくる、アジアの歴史性や社会性、政治性などの問題について聞いた。

── まず、テーマを説明してください。

 「異人」をテーマとするときに、日本の折口信夫のいう「稀人」を参考にしました。その地域の神ではなく他界の神で、幸運をもたらします。この展覧会では、「異人」は神やスピリット、シャーマン、外国商人、移民、マイノリティー、入植者、密輸業者、パルチザン、スパイ、裏切り者など、他の世界とのコミュニケーションを可能にする「他者」を意味します。彼らとの出会いを通して、既存の知識体系の限界やアイデンティティの枠組みを超えることができます。また、「山」と「海」は「ゾミア/Zomia」と「スールー海/Sulu Sea」を指します。この2つの場所は文明の混在地であり、地域文明を単位とする概念とは異なるため、学問的視点からもいま改めて注目されています。また「雲」と「鉱物」、「水循環」と「プレート運動」という自然現象も、今回の展覧会における作品の基本的な要素であり、政治、歴史、自然、非人間などの要素をテクノロジーと対比させることで、人間中心主義を打破し、あらゆるものとの共存を再考することを提案しています。

WANG Si-Shun 「Apocalypse」 2015-2019年

── 展示作品ではどのようなものがありますか?

 アーティストの王聞凱は地質科学者と協力し、断層と関連がある地質、災害、身体、社会、歴史などの問題を考え、人類と自然や、非自然などとの現代における問題を表現しています。

 また、映像作家・劉窓の「Bitcoin Mining and Field Recordings of Ethnic Minorities」は今回のビエンナーレのテーマと高い共通性があるのですが、ビットコインをマイニングすることからイメージしています。地表を流れる水から発生した電気エネルギーが、デジタルクラウドに蓄えられたビットコインに変換されるのが現代です。一方で、ゾミア地方の少数民族は、ダム建設のために現代社会に溶け込むことを余儀なくされて生活しています。事物間の自然な関連が人間の活動によって一度打ち壊され、無秩序化した後に、改めて別の秩序によって再構成されていく過程をモチーフにしているのです。

劉窓(LIU Chuang) 「Bitcoin Minging and Field Recordings of Ethnic Minorities」 2018年

── 会場の資料展示も興味深いです。

 この展示は「空」をテーマにしていて、異なる作品の資料を同空間に展示しながら、それぞれの間には適当な空間を設けてあります。その空間があることによって、芸術と社会や自然、科学、技術などのジャンルの境界を崩そうとする試みです。古代の学問には現代のような分類がなく、魔術師や祈祷師は天文学をはじめ様々な知識を持っていました。

── 映像作品が多いようですが、許さん自身が映像アーティストであることと関係があるのでしょうか?

 自分で制作しているので、もちろん他の映像アーティストのことも詳しいですからね(笑)。確かにそれもありますが、実際には何子彦とキュレーションしていくなかで、結果的に映像の作品が多くなったということです。

 現代アートにおいて、初期の映像作品は伝統的なドキュメンタリーとは区別され、物語性を排除したものでした。例えばナム・ジュン・パイクの初期の映像作品は反ナラティブで、様々なイデオロギーを表現していました。しかし、今回ご覧いただければわかるように、物語性を取り入れている作品が多くあります。これはいかにしてストーリーを語りながら、イデオロギーの論争に陥らないかというとてもセンシティブな表現と関係していて、映像はより複雑な手法になってきたといえます。

TING Chaong-Wen 「Virgin Land」 2019年

 例えばMing WONGの作品は、女性が生きるためには暴力に屈しなければならないというストーリーをオペラ形式で語っています。また、Gilad RATMANの作品はストーリーができあがるまでの、作品制作の過程を見せることで、創作がどのように発展していくのかを提示しています。

Ming WONG 「Bloody MarysーSong of the South Seas」 2018年

── 日本の作家では田村友一郎の作品がありますが、どのような理由で選出したのでしょうか?

 彼の作品は横浜美術館で初めて見ました。横浜を詳しく調査し、三島由紀夫の小説のナレーションやギリシャ彫刻、ビリヤード台、映像など様々なモチーフを通じて、第二次世界大戦後に米軍が駐留していた時に起こった歴史的な事件などを表現しています。日米関係の矛盾する政治的議題を、ユーモアや美しさを詩的に表現しています。これはこの作品の重要なところです。

田村友一郎 「Milky Bay」 2016年

── 他に重要な作品を挙げるとするとどの作品ですか?

 jiandyinの「Friction Current: Magic Mountain Project」という作品です。ショーケースの中央に入れられた玉は化学的に生み出された硬いものです。そこに常時循環する液体が掛けられているのですが、その液体は実は麻薬中毒者の尿です。これは麻薬中毒者の尿から再度麻薬を精製するというゾミア地域で実際に起こっていることです。合法と違法の境界にあるグレーゾーンを可視化しようとしています。民族と国家、社会と政治、経済と文化といった対比をメタファーとしているところに注目してください。

Korakrit ARUNANONDCHAI 「No History in a Room Filled with People with Funny Names 5 」 2018年

第7回 アジア・アート・ビエンナーレ

会期:2019年10月5日〜2020年2月9日

会場:台湾・台中国立台湾美術館(403台中市西區五權西路一段2)